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高校講座 倫理 近代的自我の確立3 与謝野晶子
精神分析における自我概念
常識的にいえば自我とは自分の存在そのもののことであるが,自我が個人の人格の一部に過ぎず,はじめから存在しているわけでもなく,いったん形成されたあとも分裂,拡散,崩壊する不安定なものであることを説くのが精神分析である。人間は生まれたときはアイデンティティ,客体我などと呼んで区別することもある。しかしこの二つの自我は一体不可分なので別々の用語を用いると,あたかも技術者と彼が操作する機械のように別々のものと受け取られる恐れがある。本能が壊れ,本能的行動規準を失った人間は,人格の統合性を保持するのも,現実適応を図るのも,自分が何であるかということ,自分についての自分の規定,すなわち対象としての自我(たとえば〈おれは偉い社長だ〉)を意識的または無意識的に規準にするほかはない。統合失調症の場合のように,対象としての自我が崩壊すれば主体としての自我も崩壊するのだから,両者を別々の用語で呼ぶことには難点がある。


